人生を変えてくれたある塾の話

森戸塾は、今年で23年目の春を迎えます。

独立前の期間も含めると、私はもうかれこれ30年ほど塾の先生を続けてきたことになります。

振り返ると、本当に長い時間が過ぎたなと、感慨深く思います。

子どもの頃、私は将来の夢や目標について、特別な希望を持っていたわけではありません。

強いて言えば、英語が好きだったので、「何か英語が活かせる仕事ができればいいな」と漠然と思っていただけです。

だから、塾の先生になるつもりは、まったくありませんでした。

しかし、人生は不思議なもので、思わぬ形で方向が定まるものです。

気がつけば塾の先生として、長い時間を過ごしてきました。

もともと飽きっぽい性格の私が、よくここまで続けてこられたな、と自分でも驚くことがあります。

では、なぜ私が塾の先生になったのか。

それを振り返ると、やはり自分自身の中学生時代に通っていたある塾の先生の存在が大きかったことを思い出します。

私の中学校生活は、時間的な区切りではなく、私自身がまるで別人のように前半と後半に分かれていました。

前半の私は、勉強がほとんどできず、何事にも自信が持てない少年でした。

友達とのつきあいや部活のことなども、どこか自分にはうまくできないという気持ちがつきまとい、常に不安を抱えていました。

ところが後半の私は、勉強ができるようになり、何事にも自信を持って取り組めるようになっていたのです。

この変化をもたらしてくれたのが、ある小さな学習塾の先生でした。

中学1年生の頃から私は塾に通っていました。

当時の私は大宮市(現さいたま市)で生活しており、通っていたのは大宮駅近くにあった、県南部で当時最も知名度のある大手学習塾でした。

しかし、その塾は意欲に欠ける生徒が目立ち、授業中はおしゃべりばかり。

おとなしいなと思ってふと見ると、熱心にノートに落書きをしている生徒もいます。

先生はそうした生徒に関わることなく、一方的に授業を進め、時には生徒を怒鳴りつけることもありました。

意志の弱い私は、その雰囲気に飲まれ、当然のように授業には集中できませんでした。

今から思えば、こんな環境で成績が上がるわけはありませんでした。

中学校生活も折り返しを迎え、高校受験のことが頭をよぎるようになりました。

「このままではまずい」と次第に焦りが募ります。

しかし、どうすればよいかはわかりません。

そんな折、母が近所の人から聞いてきた塾の情報が目に留まりました。

それは、隣の中学校の学区にある小さな個人塾で、名前も聞いたことがない塾でした。

しかし、「成績が上がる」と評判の塾だといいます。

ただひとつ気になるのは、指導が厳しいらしいということでした。

もうすぐ中3になるという、時間的にもあまり余裕もない中、母とともに意を決してその塾を訪ねました。

私の成績表を見た先生は、開口一番「うちでは預かれません」と言いました。

成績が悪すぎて面倒が見られないというのです。

しかし、母が頼み込んでくれたおかげで、どうにか入塾することができました。

授業が始まると、驚きの連続でした。

勝手におしゃべりをしたり落書きをする生徒は一人もいません。

授業には緊張感がみなぎり、全員が真剣に取り組んでいます。

先生の授業は非常にわかりやすく、内容がするすると頭に入ってきました。

それまでの大手塾では、ただ話を何となく聞いているだけで終わっていたので、新しい塾では「なるほどそうか!」と、理解できる楽しさがありました。

しかし、家庭学習の課題も多く、それまで経験したことのないレベルの学習量でした。

初めは大変でした。

毎日の課題に追われ、時には疲れて逃げ出したくなることもありました。

しかし、歯を食いしばって頑張るうちに、次第に自分の中からやる気が湧いてくるのがわかりました。

先生も、学習が遅れがちだった私を授業のない日にわざわざ呼び出して、1対1で補習をしてくれたりしました。

そのおかげで、学ぶ楽しさや達成感を少しずつ感じられるようになったのです。

そしてついに、成績が飛躍的に伸びる日がやってきました。

それまで40点台が限界だった英語と数学の定期テストの点数が、両方とも80点を超えたのです。

その後も成績は順調に上がり、最終的に、私は埼玉県浦和市立高校(現さいたま市立浦和高校)に合格することができました。

入塾する前には到底考えられない高校です。

お互いに励ましあいながら、一緒に自転車で通塾していた友人も、埼玉県立春日部高校に合格し、二人で喜びを分かち合ったことを今でも鮮明に覚えています。

あまり有名ではない、小さな個人塾でしたが、私にとっては人生を大きく変えてくれた塾でした。

そして、この経験こそが、私が塾の先生の道に進むきっかけとなったことは間違いありません。

森戸塾も、あの塾のように、生徒一人ひとりの可能性を信じ、真剣に向き合える場所でありたいと、開塾以来ずっと心に思っています。

勉強をすることによって、成績が上がることももちろん大切ですが、それだけが学習の目的ではありません。

学ぶ過程の中で、「自分にはできる」という自信を持ち、「やれば結果は出る」という経験を積むことこそが、子どもたちの人生にとって何よりも大きな財産になります。

私は、生徒がつまずいたとき、迷ったとき、壁にぶつかったときに寄り添い、一緒に考える存在でありたいと思っています。

どんな小さな努力も決して無駄ではないことを伝え、子どもたちが自分の力で乗り越える喜びを感じられるよう導くのが、森戸塾の使命だと考えています。

23年目の春を迎え、私自身、あらためてその思いを胸に刻んでいます。