プロが教える塾の選び方

街中を見回してみると、今やいたるところで学習塾を目にします。

大手学習塾、個人塾、集団指導、個別指導・・・といろいろありますが、いまいち「どれがいいのかわからない」という保護者様も多いのではないでしょうか。

確かに、学習塾のサービスは手に取って比較をすることができません。

また、どんな学習塾であっても、すぐに効果が出るものではありませんので、なおさら判断に困ってしまいます。

そこで、受験指導の世界で「飯を食って30年」の私が、プロの目から見た学習塾の選び方を、塾選びに迷っている保護者様にお伝えしたいと思います。

結論から言えば「私の塾をお選びください!」ということです(笑)。

しかし、それではあまりにも客観性にとぼしいので、一般の保護者様が知り得ない「塾業界の実情」を、私自身が経験してきた事実をもとに、できるかぎり客観的に書いてみました。

ほんとうは、もっと短くまとめるつもりでした。

しかし、書き始めると「あれも書かなければ!」ということがつぎつぎと浮かんできて、気がつけば1万文字を超えてしまい、10項目にも及ぶ長い文章となってしまいました。

ちなみに10項目のタイトルは以下のとおりです。

  1. 塾はどこでも同じ?(その1)
  2. 塾はどこでも同じ?(その2)
  3. 大きいイコール安心?
  4. 個別か集団か?
  5. 授業料について(その1)
  6. 授業料について(その2)
  7. 無料に潜むワナ
  8. 大手の優れたノウハウとは?
  9. 個人塾こそ最高の塾なのか?
  10. 最後に

読みやすくするために、内容を大幅に削ることも考えました。

しかし、保護者様が学習塾を選ぶ際に必要となる知識を、すべて正確にお伝えするためには、どうしてもこれだけの字数が必要であると考え、あえてそのままにしました。

何かとお忙しい保護者様がお読みになるのは大変かと思いますので、お時間がある時に気が向いたらお読みください。

 

1 塾はどこでも同じ?(その1)

まず最初に申し上げておきたいことは、塾はどこでも同じではありません。

塾には成績が上がる塾と、上がらない塾があります。

成績の向上を求めて塾に通っても、塾そのものの選択を誤れば、すべては時間とお金のムダとなってしまいます。

お子さんが塾に通っているのに成績が上がらない場合、具体的な原因はつぎの2つのうちのどちらかです。

そもそもお子さんが真面目に授業に取り組んでいないか、授業後にほとんど家庭学習をおこなっていないかです。

まず最初の原因ですが、これは生徒の責任とは言えません。

100パーセント塾の責任です。

生徒が真面目に授業に取り組まない塾は、講師に「プロ」としての力がなく、授業に当たり前の緊張感がありません。

さらに、授業がわかりにくいために、途中で眠くなったり、となりの子とおしゃべりをはじめてしまうのです。

机の下に隠したスマートフォンで、メッセージのやりとりをはじめる子もいます。

「ふつうは見たら叱るでしょ?」

そう思いますよね。

しかし、叱らないのです!

正確に言えば、叱らないというより、叱れないのです。

叱って辞められたら困るからというのが理由です。

「そんな塾、めったにないんじゃない?」

いいえ、当たり前に存在します。

だれもが知っているような大きな塾でも、そんな授業しかできない講師が大勢います。

もっと言えば、大きな塾ほどそのような講師がたくさんいます。

私は大手学習塾時代に、新入社員教育を担当したことがあります。

担当した社員のなかには、明らかに塾講師としての適性がない人も多くいました。

しかし、そのような人であっても、わずかな期間の研修だけで、生徒の前に立たせてしまっているのが大手学習塾の実情なのです。

「2・6・2の法則」というものをご存知でしょうか?

どこの会社でも、優秀な社員が2割、並みの能力の社員が6割、ダメな社員が2割いるというものです。

優秀な社員のみの会社は存在しません。

大手学習塾の場合もまったく同じです。

優秀な講師は、全体の2割しかいないのです!

また、運良く優秀な講師にめぐり会うことができても、ずっと指導してもらえる保証はありません。

異動や退職によって、途中でいなくなってしまう可能性があるからです。

大変残念なことですが、大手学習塾では、プロの水準に達していない講師が、あちらこちらで「学級崩壊」を引き起こしています。

そして、それが決して珍しいことではなく、ごくごく普通のことなのです。

家計をやりくりしながら授業料を払い、わざわざ送り迎えまでして通わせている学習塾で、子供は勉強もせずに遊んでいた。

こんなことは信じられないかもしれません。

しかし、塾に通っているのに成績が上がらないというときは、塾に勉強をしに行っているのではなく、遊びに行っている可能性を疑ってみるべきです。

そして、もしそうであった場合、それを黙認しているような塾では、これから先も成績が上がる見込みは、まずないと考えるべきです。

 

2 塾はどこでも同じ?(その2)

つぎに、理由の2つ目として、授業後の家庭学習の問題について見ていきます。

成績向上のためには、授業後の家庭学習(復習)が欠かせません。

熱心に授業を聞いても、そのままではすぐに内容を忘れてしまうからです。

ところが、この家庭学習をおこなうかどうかは、生徒の自主性に任せるしかありません。

そこで、成績の上がる塾では、生徒に家庭学習をさせるための「工夫」をおこなっています。

私の塾であれば「宿題」がこれにあたります。

私の塾には授業用のテキストとは別に、それと連動した「宿題用問題集」があります。

そして、国語以外の教科では、その問題集を使った宿題がほぼ毎回出ます。

分量としてはたった1、2ページにすぎませんが、すべてを仕上げるためには最低でも30分から1時間は必要です。

したがって、生徒たちにとっては、ちょっと面倒くさい仕組みかもしれません。

しかし、たったこの程度の家庭学習であっても、それをしっかりと継続することによって、爆発的に成績を伸ばすことが可能となるのです。

はじめは「めんどくさ~い」と思っていた生徒も、その効果に自分でもビックリです!

いっぽうで、成績が上がらない塾では、基本的に授業は「やりっぱなし」です。

かりに宿題を出したとしても散発的なものであり、毎週決まった定期的なものではありません。

家庭学習をおこなうかどうかは、ほぼ生徒任せの状態なのです。

これでは、初めから学習意欲が高い子以外は成績が上がりません。

したがって、成績が上がる塾を選ぶためにはつぎの2つの点が大切です。

講師に十分な力量があり、授業に適度の「緊張感」があるか?

宿題や家庭学習の指示が定期的に出されていて、それを塾がチェックできる仕組みを持っているか?

これらの点を、ぜひ、成績が上がる塾を選ぶときの「チェックポイント」にしてみてください。

 

3 大きいイコール安心?

塾業界は労働条件がひじょうに悪く、離職率がとても高い業界です。

そのため、大手学習塾では、慢性的に人手不足の状態が続いてます。

その結果として、ほとんど指導経験もないような講師が、指導のプロとして教壇に立たされていることもめずらしくないのは先ほども書いた通りです。

ところで、大手学習塾は自らの塾の講師陣を「優秀な講師陣」と称して宣伝しています。

そして、その優秀さの証として、講師の学歴を挙げます。

しかし、講師の学歴と優秀さは必ずしも比例しません。

「知識を持っている」ということと、それを「教えることができる」というのは、まったく別の能力です。

優秀な講師になるためには、生徒にわかりやすく知識を伝えるための、高いコミュニケーション能力が必要なのです。

しかし、一流大学を出ているからといって、コミュニケーション能力が高いとは限りません。

コミュニケーション能力が高いか低いかは、ほとんどと言っていいくらい、その講師自身のパーソナリティーによるものであり、卒業した大学のレベルとはいっさい関係がありません。

また、優秀な大学を卒業している講師は、生徒の「わからない」という状態が、感覚的に理解できないことが多いようです。

なぜなら、自分自身にそのような経験がないからです。

生徒の「わからない」という状態が理解できる講師と、そうでない講師とでは、どちらがよりよい指導ができるでしょうか?

実際のところ、私が以前に勤めていた大手学習塾でも、指導力に長け、保護者からの信頼が厚い講師は一流大学ではなく、いわゆる中堅大学の卒業生が多かったように思います。

そして、何と言っても特筆すべきは、そのような講師は多くの場合、いずれかの段階で大手学習塾を辞めて、自分の塾を立ち上げるということです。

実は、いちばん質の高い指導が受けられるのは「大手学習塾の人気講師」が独立して開いた塾なのです。

そのような塾であれば、大手学習塾以上の優れた指導を、大手学習塾よりも安い費用で受けることができます。

飲食店で言えば「職人気質の凄腕シェフが開いた店」といった感じで、塾業界の知る人ぞ知る「隠れた名店」というわけです。

大きい塾に行けば、一流大学出身の優秀な講師がいて、つねに質の高い指導が受けられると考えている保護者様もいるようですが、それは必ずしも正解ではありません。

なぜなら、本当に優秀な講師は自分で生徒を集め、独立することが可能だからです。

つまり、優秀であればあるほど、いつまでも納得のいかない指導方針に目をつぶり、ブラックな労働環境に甘んじている必要はないのです。

さっさと辞めて自分で塾を立ち上げたほうが、自らが理想とする指導をおこなうことができるうえに、収入面でもより多くを期待できます。

ですから、優秀な講師にとって、大手学習塾は独立の準備をする場所でしかなく、準備が済めばさっさと独立をしてしまうのです。

事実、私が勤めていた大手学習塾でも、指導力に長け、保護者からの信頼が厚い講師ほど、数年間勤めただけで独立してしまいます。

そして、今ではそのような講師が立ち上げた塾が、日本各地に存在しています。

この事実からも、塾は大きいから安心とか、小さいから不安といったことはなく、むしろ当たりはずれの大きい大手学習塾よりも、優秀な講師が独立して開いた小さな塾のほうが、圧倒的に安心ということが言えるのです。

 

4 個別か集団か?

学習塾は大きく分けると「個別指導」と「集団指導」に分かれます。

どちらにも「メリット」と「デメリット」がありますが、一般的な中学生が成績を上げたいと考えているのであれば、

私は「実力のある講師による集団指導」のほうが優れていると考えています。

個別指導のメリットととして「自分のペースで勉強できる」というものがあります。

しかし、これは「メリット」であり「デメリット」でもあるのです。

当たり前ですが、勉強には適切な「進度」があります。

また、テストには「制限時間」があります。

勉強は決められた「期間」や「時間」のなかで結果を出さなければならないものなのです。

しかし、個人のペースに合わせることが可能な個別指導では、その能力が身に付きにくいのも事実です。

それに対して、集団指導の学習塾では、生徒が塾のペースに合わせなければならないので、決められた時間の中で考えて、正しく答えを出す能力が身につきやすくなります。

また、人間は良くも悪くも「まわりからの影響」を受けますが、集団指導の学習塾であれば、まわりからの「いい影響」を受けることができます。

「みんながんばってるんだから自分もがんばらなくっちゃ!」

このような意識が芽生えるのも「集団指導」ならではです。

特に受験生の場合、受験という同じ一つの目標に向かってがんばる「連帯感」は、毎年見ていて素晴らしいものがあります。

心理学の用語で、仲間からの圧力を「ピアプレッシャー」と呼びます。

この「ピアプレッシャー」をうまく使い、成績向上の補助ロケットととして利用できるのも「集団指導」の利点なのです。

したがって、一般的な中学生が成績向上を望むのであれば、実力のある講師が、適切な人数でおこなう「集団指導」がベストでしょう。

また、個別指導の学習塾においては、どうしても無視できない点があります。

それは、講師のほとんどが正社員ではなくアルバイトであるということです。

個別指導は集団指導とくらべ、1人の講師が指導できる生徒の数が極端に少なくなります。

そのため、集団指導の塾よりも、たくさんの講師が必要となります。

当然、そのすべてを正社員でまかなうことは、人件費の問題からいって絶対に不可能です。

したがって、1つの教室につき、正社員の数は1人から2人程度しかいないのがふつうです。

ほかの大部分は、時給で働くアルバイト講師ということになります。

私も大学生の頃、アルバイトで時間講師をしていたのでわかりますが、どんなに一生懸命に教えても、アルバイトの講師は、所詮アルバイトです。

指導のスキルは熟練正社員講師の足元にもおよびません。

また、運良く自分にあう講師にめぐりあえても、いつまで教えてもらえるかわかりません。

アルバイトである以上、入れ替わりが激しいのは当然です。

このように、個別指導の学習塾は、集団指導の学習塾以上に、講師の当たり外れが大きいのが現状です。

したがって、熟練の正社員講師に教えてもらえるのであれば問題ないのですが、そうでなければ、個別指導の学習塾は、ひじょうに「高い買い物」となってしまいます。

さらに、塾によっては「個別」と謳っておきながら、1人の講師がいっぺんに5人も6人もの生徒を指導しているところもあります。

このような塾では、たくさんの生徒を1人の講師が巡回する形で指導をするので、それぞれの生徒を指導する時間はとても短くなってしまいます。

例えば授業時間が60分だったとしても、実際に指導をしてもらえる時間は、おそらくその半分もないかと思います

「個別ならしっかりと指導してもらえそう」

そのようなイメージに安易に惑わされることなく、個別学習塾の実情もしっかりと理解しておいたほうがいいでしょう。

 

5 授業料について(その1)

一般的に大手学習塾の授業料は、個人経営の学習塾にくらべて割高です。

大手学習塾は、直接的に利益を生まない「間接部門」を多く抱えているからです。

また、宣伝や広告にも莫大な費用がかかっているというのも、大手学習塾の授業料が高い理由です。

某有名通信教育会社から個人情報のデータが流出したあと、大手学習塾からひんぱんにダイレクトメールが届くようになったご家庭も多いかと思います。

大手学習塾は、そのデータを情報を転売する業者から買い、印刷代、郵送代をかけて、何千、何万、という数の家庭に郵送しているのです。

このように、大手学習塾は生徒獲得に、ものすごい費用をかけています。

したがって、そのような費用も授業料に上乗せされているというわけです。

また、ますます進む少子化のなかで、大手学習塾が、売り上げを維持するためにおこなっているのが、生徒1人あたりから取る授業料を上げることです。

いわゆる「客単価」のアップです。

その手段となっているのが「オプション講座」です。

「取らなければ合格できない」

この一言により、不要な講座でもあってもほぼ強制的に受講させてしまうのが大手学習塾です。

このように、オプションとはいいながら、受講がほぼ強制となっているのが特徴です。

そして、すべてが不要とは言いませんが、かなりの部分が不要と言ってもいいものばかりです。

勉強は「授業」と「復習」で1つのセットです。

いくら「授業」をたくさん受けても、それにともなった「復習」がなければ、まったく効果は期待できません。

食べ物が消化によって栄養になるように、授業も復習によってはじめて自分の学力となるからです。

しかし、塾から言われるままにオプション講座を受講していたら、2学期からは1週間を通してほぼ毎日塾に通うことになってしまいます。

そのような状態では、じっくりと腰をすえた家庭学習はできません。

また、これでは保護者様の経済的な負担も計り知れません。

たった1年間で軽く50万円を超え、70万円やら80万円といった授業料は、保護者様にとっては大きすぎる負担です。

もし、こうでもしなければ高校に合格することはできないというのであれば、私の塾からは合格者は出ないはずです。

しかし、私の塾では毎年ほとんどの生徒が第一志望の高校に合格します。

このことからも、大手学習塾では、多くのご家庭がかなり余分な費用を払わされていることがわかると思います。

 

6 授業料について(その2)

大量のオプション講座は、保護者様の金銭的な負担の問題にとどまりません。

それとは別に重大な問題があります。

それは、子供たちの勉強姿勢が「受け身」なものになってしまうということです。

「勉強は与えられたものだけやっていればよい」という、間違った姿勢を身につけてしまうのです

高校入試までであれば、それでもどうにかなるかもしれません。

しかし、高校入学後は完全にアウトです。

高校での勉強は「質」の面からいっても「量」の面から言っても、中学の比ではありません。

まずは自分でやるべきことをやり、足りないところを補ってもらうという姿勢でなければ勉強をすることはできません。

また、さまざまな技術革新により、世の中が移り変わっていくスピードは年々加速しています。

昔は、1つの知識や技術が10年通用したと言われていますが、現在ではたったの数年で新しいものに置き換わってしまいます。

これからの社会では、どんな仕事に携わる人も日々のアップデートが必要とされます。

学校を卒業したのちも、自分から積極的に学び続ける姿勢が必要とされるのです。

したがって、教育に携わる人間は、子供たちに「自ら学ぶ姿勢」を身につけさせなければならないはずです。

しかし、ほとんどの大手学習塾は、それとはまったく逆のことをしているのです。

大手学習塾にとっては、生徒たちの将来よりも、いま、自分たちがどれだけの利益を上げることができるかが重要なことだからです。

確かに利益がなければ、塾は継続できません。その点においては、どんな塾にとっても利益を上げることは最重要課題と言えます。

しかし、大手学習塾とは違い、個人塾は自分の利益のみを優先させることはできません。

なぜなら、個人塾の経営者は、その地域で暮らす住人でもあるからです。

地域社会の一員として、同じ地域に住む人をだますような商売のしかたはできないのです。

「もう、これ以上このやり方にはついていけない!」

心ある講師が大手学習塾を辞めて、自分の塾を立ち上げる理由のナンバーワンです。

そのような人たちが開いた塾には、不必要なオプション講座はありません。

オプション講座の設定そのものはあっても、最低限の本当に必要なものだけであり、受講も強制的ではありません。

「お金が続かなくなって塾を辞めてしまった」

大手学習塾に通っていた生徒の保護者様から、最近このような言葉を聞くことが増えました。

そのような人たちが通っていた塾は、オプション講座とは言いながら、受講がほとんど強制となっている講座が大量に用意されています。

塾は商売であり、ボランティアではありません。

美容師さんがタダではお客さんの髪を切らないように、塾の講師もタダでは生徒の指導はできません。

したがって、受験に向けて他の学年よりも大幅に指導時間が増える中3については、その分、料金を高めに設定せざるを得ません。

私の塾においても他の塾と同様に、中3は9月以降、指導時間がそれまでの倍以上に増えますので、それにともない、いただく料金も増えます。

本当は、時間も料金ももっと少なく抑えたいのですが、受験に向けて学力を伸ばし、志望校に確実に合格させるためには仕方がないことです。

しかし、保護者様や生徒本人が、本当に必要なのか、あるいは不必要なのかを見極められないものを、塾の利益のためだけに、何重にも重ねて売る行為は感心できません。

聞くところによると、成績が振るわない生徒の保護者に面談を持ちかけて、別の授業を追加で受講するよう迫る塾などもあるようです。

塾の側から「成績がふるわないので面談をしましょう」と持ちかけられれば、ふつう、保護者様は何か効果的なアドバイスがもらえるのではないかと期待をするものです。

しかし、わざわざ出かけてみたら、アドバイスどころか、さんざん危機感をあおられたうえに、さらに別の授業を売りこまれたというのでは笑うに笑えません。

オプション講座が大量に用意されていたり、カリキュラムが不明瞭な塾は、そういった傾向の塾であることを覚えておいてもいいかと思います。

 

7 無料に潜むワナ

塾によっては定期テストの前に、大量の対策補習を「無料」で行うところがあります。

そのような塾にとって、この無料補習は新たな生徒を獲得するための「宣伝材料」のひとつです。

「えっ、生徒の成績アップのためじゃないの?」

はい、成績アップのためではありません。

正確に言えば、そのような補習で成績が上がることはあまりないので、宣伝にはなっていても、成績アップのためにはなっていないというのが正しいところです。

それではなぜ、テスト直前の補習では生徒の成績は上がらないのでしょうか?

「集中学習」によって得た記憶の定着率が低いことは、心理学的にもよく知られています。

また、この学習方法で覚えたことは、かなりのハイスピードで忘れてしまうことも有名です。

前の日に、一夜漬けで「覚えたはず」の内容が、試験の当日にほとんど思い出せないという経験をしたことのある保護者様も少なくないと思います。

まさにこれが理由なのです。

短時間で詰め込んだ内容は、定着率も低いうえに、忘れてしまうのも「すぐ」なのです。

それに対して、ものごとを長い期間をかけてくり返し学ぶことを「分散学習」と言います。

この「分散学習」によって得た記憶は定着率が高く、さらには長期間にわたって維持されることが心理学で実証されています。

したがって、私たち学習塾が生徒たちに教えるべき学習態度は、本来であれば、この「分散学習」のはずなのです。

しかし、生徒たちに「ふだんからの継続した学習姿勢」を身につけさせることは、ひじょうに手間と時間がかかります。

また、生徒たちを指導する講師に「モチベーター」(人にやる気を起こさせる技術を持った人)としての資質が必要です。

しかし、そのような人材はどこの塾にでもいるわけではありません。

また、なんといっても地味であり、大々的に宣伝として利用できるものではありません。

そこで、効果がないとわかっていながらも、とりあえず見栄えが良く、どんな講師でも実施することができる「無料補習」という形を取っているわけです。

実際のところ、このような塾でも点数を上げる生徒はいます。

チラシなどでも大々的にアピールをしています。

しかし、そのような生徒は、その塾の指導のおかげで点数が上がったというよりも、その子がもともと持っていた学習姿勢によって点数が上がったというほうが正しいのです。

ズバリ言えば、その塾でなくても、どこの塾に行っても成績が上がった生徒というわけです。

ところで、先ほど無料補習は「効果がない」と書きました。

しかし、効果がないどころか「大きなマイナス」となる可能性もあるのです。

「どうせテスト前に補習があるから」

このように考えて、ふだんの授業をいい加減な態度で受けてしまうのです。

成績がいい子は、学校でも塾でも真剣な態度で授業に取り組んでいます。

そして、そのたびにしっかりと復習をおこなって、分散学習により、確かな学力を身につけています。

成績を向上させるための第一歩は、まずはしっかりと授業に取り組むことです。

しかし、塾が用意するテスト前の無料補習が、子供たちをかえってこのような姿勢から遠ざけていまうというのも事実なのです。

 

8 大手の優れたノウハウとは?

「大手学習塾には、何か特別に優れたノウハウがあるのではないか」

このように考えている保護者様もたくさんいらっしゃるかと思います。

結論から言いますと、そのようなものはありません。

正確に言えば、いわゆる「地方」の大手学習塾には、そのようなノウハウは存在しません。

東京や東京に近いところには県立(公立)高校のほかに、数多くの私立高校があります。

それらの私立高校のなかには、難関校とよばれる高校も多く、生徒が進んで第一志望に選ぶようなところも数多くあります。

そのような高校に合格するためには、教科書レベルの勉強だけでは不十分です。

信頼できる情報を集め、しっかりとした対策を立て、志望校の入試傾向に合わせた勉強をしていかなければなりません。

このような地域では、規模の大きさを活かした「情報収集力」と「蓄積されたノウハウ」がものを言います。

そのためには多くの人員が必要であり、その点から言うと、大手学習塾にかなう個人塾はほとんどないでしょう。

その一方、地方においては、ほぼ100%に近い生徒が県立高校を第一志望としています。

私立高校を第一志望にするケースはひじょうにまれです。

また、レベル的にも県立進学校を上回る高校はほとんどありません。

したがって、地方の中学生の受験勉強は、県立高校合格を目的とした、教科書レベルの内容で十分に足りるのです。

また、県立と私立を合わせても、もともとの学校数が少ないため、入試に必要な情報は、誰の耳にも簡単に入ってきます。

このように、地方の高校入試には、特別なノウハウは必要ないのです。

このような状況のなかで、大手学習塾と個人塾で差が出ることはありません。

むしろ、講師によって著しく指導力の差がある大手学習塾よりも、大手で経験を積んだ人間が、長い期間続けている個人塾のほうが指導力は勝っています。

したがって地方においては、大手学習塾が「規模の大きさ」を、メリットとして活かすことのできる場面はほとんどないのです。

また、毎年発表される「合格実績」も、塾の実力を正確に表すものではありません。

大手学習塾は生徒の数が多いわけですから、合格者もそれなりの人数になるのが当たり前です。

さらに言えば、塾側が一方的に発表する数字なので、外部の人間にはその真偽を確かめる方法がありません。

したがって、数字は塾側の都合でどうにでも操作することが可能です。

事実、いろいろな塾が発表している人数をすべて合計したところ、その学校の定員をはるかに超えてしまったという話は、塾業界では有名な「あるある」です。

また、入試が終わると、チラシに「今年も入試問題的中!」といった内容を載せる塾もあります。

しかし、よく見てみると、それらの問題はどこの塾のテキストにも当たり前のように載っている問題ばかりです。

入試問題を熱心に研究した結果、その塾が特別に的中させたというようなものではありません。

それをあたかも予想が的中したかのように装い、あと出しじゃんけんのように出してきているに過ぎないのです。

塾の講師は占い師ではありません。

どんなに優秀な講師であっても、入試問題を予想して、それをズバリ的中させることはできません。

もちろん、いろいろな入試問題を研究することによって、ある程度までの予測は可能です。

しかし、まったく同一の問題のような、ズバリ的中は絶対に無理です。

しかし、どのような問題が出ても対応ができるよう、生徒たちに「確かな学力」を身につけさせることは可能です。

そして、それこそが塾本来の仕事であり、予想した入試問題に合わせて、生徒たちに山を張らせることが仕事ではありません。

現代は「モノやサービスが売れない時代」と言われています。

このような状況の中で、企業は自社のモノやサービスを売るために、巧妙に「マーケティングのワナ」を仕掛けるようになってきています。

「マーケティング」とは、もちろん「モノやサービスを売るためのテクニック」のことを言いますが、使い方によっては消費者をだますことも可能です。

現代の消費者は、マーケティングに仕掛けられたワナを見抜く「確かな目」が必要とされていることは間違いないようです。

 

9 個人塾こそ最高の塾なのか?

大手学習塾のデメリットばかりを書くとフェアではありません。

個人塾の持つデメリットについても触れておきたいと思います。

個人塾であればどこでも素晴らしいのかと言えば、そういうわけではありません。

お勧めできない個人塾も確かに存在します。

それは、大手の学習塾に勤務したことがない人が開いている塾です。

先ほど、大手学習塾には特別なノウハウはないと書きました。

しかし、大手学習塾にあって、多くの個人塾にないものがあります。

それは「塾はサービス業である」という考えです。

個人塾の経営者の多くは、自分の仕事を「授業をすること」だと考えています。

確かに間違ってはいません。

しかし、それでは「昭和の塾」と何ら変わりがなく、現在の生徒や保護者様が塾に何を求めているかがわかっていません。

現在の生徒や保護者様が塾に求めていることは、受験や勉強について、塾が「学校以上に頼りになる存在であること」です。

したがって、現在の塾にとって、授業は「最低限のサービス」に過ぎません。

受験や勉強全般について、生徒や保護者様のさまざまな不安に可能な限り応えていくことこそが、現在の塾に求められている役割なのです。

そして、そのためのこまめな情報提供や、いつでも気軽に相談ができる体制など、そのようなさまざまなサービスこそが、現在の塾に期待されているものなのです。

大手の学習塾ではその点がかなり徹底しています。

私もかつて勤務していた大手学習塾で、塾がサービス業であるという考え方を、入社当初から徹底的に教育されました。

しかし、そのような経験がないまま塾を開いた人の場合、塾と言えば、かつて学生時代に、自分が通っていた頃の塾のイメージしかありません。

授業さえしていれば生徒が集まった時代の塾のイメージです。

昔はどこの地域にもたくさんの子どもがいました。

そして、今よりずっと景気がよく、塾の数もさほど多くなかったこともあって、学習塾がとても儲かる時代だったようです。

いい加減な指導でも生徒が集まり、辞めてもすぐに新しい生徒が入ってくるので、指導の質を高めることなど考えずに済む時代でした。

当然、塾はサービス業であるという考え方など存在しませんでした。

その結果、指導そのものがいい加減であったり、生徒に対して「教えてやっている」という意識で指導をおこなっている塾もそうとうありました。

塾はサービス業とは言いましたが、さすがに「教えさせていただいている」とまでは思う必要はないと思います。

しかし、授業料をいただいている以上、生徒や保護者様に、それに見合う満足を与えなくてはなりません。

成績の向上や志望校合格は、塾側の指導だけではなく、それに生徒自身のやる気や行動が加わらなければなりません。

ですから、すべての生徒に「結果としての満足」を与えられるわけではありません。

しかし、塾の講師として、つねに忘れてはならないのは、満足を与えなければならないという使命感と、それができているかを、毎日、自分に問いかける姿勢です。

私の目から見ると、残念ながら、大手学習塾での勤務経験がない人には、そのような姿勢が見られないことが多いような気がします。

 

10 最後に

「この人だいぶ大手学習塾のことディスってるなぁ・・・」

ここまでお読みになって、おそらくそう思われたでしょう。

しかし、私はすべての大手学習塾を否定して、何が何でも「個人塾バンザイ!」の方向に話を持っていきたいわけではありません。

大手塾であっても個人塾であっても、学習塾に本来求められている、しっかりとした指導をおこなっていれば、その塾こそが「よい塾」であるというスタンスです。

大手学習塾はその規模の大きさから、地域の生徒や保護者に対して、かなり大きな影響力を持っています。

それゆえに、本来であれば、個人塾以上に「しっかりとした指導」をおこなう責任があるはずです。

しかし、残念なことに、実際はそうでないことが多いのです。

私は、1人でも多くの保護者様に「塾業界の実情」を知っていただきたいと願っています。

そして、塾とご家庭が、これまで以上にWINとWINの関係を築けるようになることを強く望んでいるのです。

実は、大手学習塾から独立した人間は、ほとんどの場合、大手学習塾のことを肯定的には語りません。

それは、大手学習塾の「実情」を誰よりもよく知っており、教育に携わる人間として、どうしてもそれに納得することができなかったからです。

そして、学習塾のあるべき姿を求めて、わざわざリスクのある独立開業という道を選んだからです。

それゆえに、個人塾の経営者と大手学習塾の講師では、仕事に対する「覚悟」が違います。

覚悟が違うからこそ、塾業界が抱えるさまざまな問題点に目をつぶっていられないのです。

ますます進む少子化と経済の低迷により、学習塾が利益を上げることは、年を追うごとに難しくなってきています。

そのような状況のなかで、大手学習塾の「利益重視」の傾向はますます強くなってきています。

企業である以上、利益を追求するのは当然のことです。

しかし、大手学習塾の多くは、利益の追求にあまりにも重点を置きすぎています。

そして、大手学習塾の現場では、心ある講師ほど、本来あるべき指導の姿と、自分の置かれている状況とのギャップに悩んでいるのです。

学習塾というビジネスは、本来あるべき姿を追求するほど儲からなくなってしまい、儲けを追求するほど、あるべき姿から遠ざかってしまうという矛盾を抱えています。

指導面と経営面のバランスを取るのがひじょうにむずかしいビジネスです。

それゆえに、個人塾の経営者は、このバランスを崩さないよう、細心の注意を払いながら自分の塾を運営しています。

もちろん、私もその1人です。

塾を選ぶ際は、安易にイメージだけで選ばずに、しっかりと情報を集めてください。

間違った塾選びは、大きなマイナスです。

金銭的なマイナスはもちろんですが、気をつけなければならないのは時間的なマイナスです。

中学生は3年間という限られた時間の中で、高校入試に向けて計画的に学力を養わなければなりません。

塾の選び方を間違えてしまうと、この貴重な時間を大幅に浪費することになり、希望する進路の実現にとっての大きなマイナスとなってしまいます。

この大きなマイナスを避けるために、ぜひ慎重な塾選びをなさってください。